191. 代表の話6・「あの日のあの場所のあの空に思う」の巻
忘れられない空があります。いつかのテレビ番組名でいう「アナザースカイ」というやつでしょうか。会社を辞めてイギリスの大学院で社会起業を学ぼうと英語を勉強していた33歳。前年に英語のスコアが届かず受験に失敗し、浪人2年目の再挑戦となる年の空でした。当時住んでいたのは東京都荒川区のビル5、6階部分になるシェアハウス。JR山手線で一番乗降客が少ないという「鶯谷駅」を出て、夜はネオンが輝くラブホテル街入口を横目に通りを進むと、言問通りという哲学的な名前の大通りが現れ、横断歩道を渡るとすぐ小学校があって近くにホテル街があるのに条例的に大丈夫かと心配する、なんともカオスなエリアに建っていたビルでした。
ハウスの住人は日本人のほか、中国、台湾、韓国、マレーシア、イタリア、スウェーデン、ロシア、ニカラグアなど色々な国から来たメンバーでした。海外志向が強い日本人、日本に憧れるアニメ好き外国人など、年齢も職業も国籍もバラバラのメンバーが住んで定員は10人だったか。最年長の私は「お父さん」と呼ばれる始末。誰かが退居してはまた誰かが入居する、出会いと別れが繰り返される一期一会の空間でした。うるさくて寝れないともめたり、けんかしたりするメンバーもいましたし、誕生日にはパーティー、隅田川の花火大会の日は屋上でバーベキューもして盛り上がったのはいい思い出。上野公園で花見をしたり、メンバーの送別で帰国当日の朝まで秋葉原でカラオケをしたり、みんなでスキーにも行ったりしました。大なり小なり、いい事も嫌な事も毎日何かしらドラマがあるような生活でした。
このシェアハウスは新型コロナウイルスの感染拡大もあって利用者が激減し、今年6月に閉鎖しました。その3カ月後の先日、長く住んでいた最後の住人から送られてきたのがメインの写真。私が住んでいた当時と大きく変わらない、ハウスの屋上から眺めた東の空の一枚です。ビル群に東京スカイツリーがそびえ立ち、関東平野の広い空が一望できる景色。ここに住んでいた誰もが見上げた空です。日本に憧れていた誰かはこの空に期待をふくらませたかもしれないですし、都会の生活や人生に疲れた誰かはこの空に励まされたかもしれないですし、思い描いていた理想の生活に裏切られた誰かはこの空に悔し涙したかもしれないです。
30歳を過ぎて脱サラし、本当に留学できるかお先真っ暗で、漠然とした人生目標を持ちつつもまだ具体的に未来を描けていなかった7年前の浪人はこの空に何を思っていたものか…。親や友人を心配させる不安によるおびえか、やると決めた決心への執念か、万一受験に失敗した時のみじめで情けない自分の投影か、まだ見ぬ遠いイギリスの空か。この屋上でばかでかい何台もの室外機からウンウンうなり吐き出される生ぬるい風を受け、そんなことを空に見ていたような。同じこの空にそれぞれの思いを持ちそれぞれの道を歩んでいるメンバーとシェアハウススタッフ関係者の皆様、ご縁に感謝し、遅ればせながらこの度はお疲れ様でした。(代表・西山)
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